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甲府地方裁判所 昭和46年(ワ)237号 判決

昭和四六年(ワ)第一五〇号事件原告、

野中秀作

第二三七号事件被告、第一一八号事件反訴原告

昭和四六年(ワ)第一五〇号事件被告、

斉藤愛子

第二三七号事件原告、第一一八号事件反訴被告

昭和四六年(ワ)第一五〇号事件被告

斉藤もよ

主文

一、別紙目録(一)乃至(五)記載の土地が第一五〇号事件被告、第二三七号事件原告、第一一八号事件反訴被告斉藤愛子の所有に属することを確認する。

二、右斉藤愛子の債務引受による賠償請求について訴を却下する。

三、第一五〇号事件原告、第二三七号事件被告、第一一八号事件反訴原告のその余の各請求(反訴請求を含む)、第一五〇号事件被告、第二三七号事件原告、第一一八号事件反訴被告斉藤愛子のその余の請求はいずれもこれを棄却する。

四、訴訟費用は全部を通じてこれを二分し、その一を第一五〇号事件原告、第二三七号事件被告、第一一八号事件反訴原告の負担とし、その余を被告斉藤愛子(第二三七号事件原告、第一一八号事件反訴被告を含む)の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

第一五〇号事件について

(第一五〇号原告、第二三七号被告、第一一八号反訴原告(以下単に原告という。被告についても同じ。))

一、別紙目録記載の物件が被告愛子の所有であることを確認する。

二、被告もよは、原告に対し同被告が別紙目録(一)乃至(六)記載の物件について甲府地方法務局昭和四五年五月一日受付第一三九七五号を以てなした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決。

(被告ら)

一、原告の請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二三七号事件について

(被告愛子)

一、原告は、被告愛子に対し金四、六八六、一五〇円及びこれに対する昭和四六年九月一四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言。

(原告)

一、被告愛子の請求を棄却する。

二、訴訟費用は被告愛子の負担とする。

との判決。

第一一八号反訴事件について

(原告)

一、被告愛子は、原告に対し金二〇〇万円及びこれに対する昭和四六年一〇月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、反訴訴訟費用は被告愛子の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言。

(被告愛子)

一、原告の請求を棄却する。

二、反訴訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二  第一五〇号、第一一八号各事件の請求の原因及び第二三七号事件の請求の原因に対する答弁(原告の主張を含む)

一、原告と被告愛子は昭和三七年一一月二日婚姻し、原告が被告斉藤家に婿入りして斉藤の氏を称した。

そして婚姻後長女、長男の二子をもうけたが、以後原告ら夫婦は協力して家業たるパン粉製造販売業に精出し、次第に利益をあげ、その利益及び原告の実家からの借金により別紙目録(一)乃至(五)記載の土地を購入し、このうち(一)乃至(四)の土地については原告、(五)の土地については被告愛子の名義による所有権移転登記をし、さらにその上に同目録(六)及び(七)記載の工場及び居宅を建築し、このうち(六)の建物については被告愛子の名義により所有権保存登記をし((七)は未登記)、これらの建物で、新たに設備した機械器具等を使用して盛大に事業を経営してきた。右物件のうち(一)乃至(四)については、家庭内の円満のため原告から被告愛子に対し贈与し、昭和四二年九月二七日付でその旨所有権移転登記を了した。

二、しかるに被告愛子は、昭和四五年初頃から家業、家庭を顧みず、原告の反対を押し切つて甲府市中央一丁目に小料理屋を経営して夜間の帰宅は遅く、またときには上諏訪温泉に外泊するなどの状況となり、夫婦間の円満をも欠くに至つたので昭和四五年五月二六日協議上の離婚をした。

三、原告は八年間にわたる結婚生活を、徒らに犠牲を強いられたのみで青春を無為に過した結果となり、これに対して被告愛子は第一項記載のとおり多大の名目上の財産(実質は原告との共有)を有するに至つたので、原告は同被告に対し財産分与請求権及び前項の事由により金銭をもつてしては到底償うことのできない精神的苦痛を蒙つた。

四、以上に関する被告愛子の主張及び同被告の主張第四項乃至第六項の事実は全部争う。但し(一)乃至(五)の土地がもと名取栄子の所有であつたことは認める。

五、そこで原告は、昭和四六年二月一日甲府家庭裁判所に対し、離婚による財産分与及び慰藉料請求の家事調停の申立をしたところ、被告愛子は、財産分与決定の基礎(対象)となる別紙目録記載の物件について同被告の所有であることを争い、また他に見るべき財産もない状態であつたため調停不調となつた。

六、それは次の事情によるものであつた。即ち被告愛子は、別紙目録(一)乃至(六)記載の物件について、甲府地方法務局昭和四五年五月一日受付第一三九七五号を以て、真正なる登記名義の回復を原因として、母である被告もよに対し所有権移転登記をなしていたので、名目上被告愛子の所有物は存しないことになつていたのである。

七、しかし右の登記は、被告らが虚無の原因をねつ造し通謀して原告の財産分与請求権を侵害する目的でなしたものであつて無効である。この点に関する被告らの主張事実は争う。

従つて被告愛子は、被告もよに対し所有権に基き前項の所有権移転登記の抹消登記手続請求権を有するものである。

八、よつて原告は、別紙目録記載の物件が被告愛子の所有であることの確認及び原告が同被告に対して有する財産分与請求権を保全するため、同被告に代位して、被告もよに対し(一)乃至(六)の物件について甲府地方法務局昭和四五年五月一日受付第一三九七五号の所有権移転登記の抹消登記手続(以上第一五〇号事件)並びに慰藉料二〇〇万円及びこれに対する請求の翌日である昭和四六年一〇月九日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払(第一一八号事件)を求める。

第三  第一五〇号、第一一八号各事件の請求の原因に対する答弁及び第二三七号事件の請求の原因(被告らの主張を含む)

一、第一項のうち、婚姻(婿入)、子の出生の点は認めるが、その余の事実は否認する。別紙目録(一)乃至(五)記載の土地は、被告愛子の父である訴外酉丸が前所有者訴外名取栄子から代金七五万円で買受けたもの、同目録(六)記載の工場は酉丸が訴外今村鉄工所に、同目録(七)記載の居宅は酉丸が訴外楠千文に、それぞれ請負わせて建築したものであるから、以上の所有権はいずれも酉丸にある。

二、第二項のうち離婚の点は認めるが、その余の事実は否認する。

三、第三項の事実は争う。以上に関する真実の実情は第一項に記載した事実の他以下のとおりである。

四、従来被告家においては、家業を被告愛子の父酉丸名義を以て営業してきたが、原被告婚姻後は原告にはげみをもたせるため原告名義に替えて営業に従事させたところ、間もなく原告は遊興に身を持崩し、妻のほかに五、六名の女性と肉体関係を結び、深夜帰宅或いは外泊をするようになつたばかりでなく、賭博にまで手を出すなど金銭を浪費するようになつた。

五、そこで前途を憂慮した被告愛子及び酉丸らは、昭和四一年八月頃親族会議を開き、一旦は原告名義にしておいた前掲(一)乃至(四)の不動産を被告愛子名義に書替え、また営業名義を原被告の共同名義(営業上発生した一切の債務について両名が連帯債務を負う)とするなどの措置を講じた。

しかるに原告の不行跡はその後も一向に改まらず、家庭を顧みないので、夫婦間の愛情は全く消失するに至り、やむをえず協議上の離婚をすることとし、昭和四五年五月二六日その届出をした。

六、以上により被告愛子は原告と結婚して以来約九年間にわたつた同棲生活の間継続して精神的苦痛を蒙り、また離婚によつて多大の精神的苦痛を受けたので、慰藉料として一〇〇万円の支払を求め、また原告は、離婚届を提出した日である昭和四五年五月二六日、身延線南甲府駅前付近にパン粉を積んだ自家用自動車を乗捨て、取引先から集金した現金一九〇万円を横領して姿を消したので、右金員が原被告の共有財産であることに鑑み、その二分の一に当る金九五万円を不法行為による損害賠償金として請求し、さらに原告は婚姻中営業不熱心のため別表記載の如き営業上の債務(原被告の連帯債務)を負うに至つたが、被告愛子は将来も営業を継続するためやむをえず連帯債務を各債権者の承諾を得て被告愛子の単独債務としたので、この合計金五、四七二、五〇〇円の二分の一に当る金二、七三六、一五〇円の損害賠償を求めるものである。

七、よつて被告愛子は原告に対し慰藉料金一〇〇万円、原告横領による損害賠償金九五万円、債務引受による損害賠償金二、七三六、一五〇円合計金四、六八六、一五〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四六年九月一四日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める(第二三七号事件)。

八、第五項、第六項の事実は認める。

九、第七条の事実は争う。

第四  証拠(省略)

(別紙)

目録

(一)甲府市富士見二丁目一四八三番の一

宅地 一二八・九二平方米

(二)同所一四八三番の二

宅地 九・九一平方米

(三)同所一四八四番の一

宅地 八九・二五平方米

(四)同所一四八四番の二

宅地 二六・四四平方米

(五)同所一四七九番の七

宅地 一三五・五三平方米

(六)同所一四八三番地の一、一四八四番地の一所在

家屋番号一四八三番一

軽量鉄骨スレート葺一部陸屋根二階建工場 一棟

床面積 一階 一六五・九一平方米

二階 五九・四〇平方米

(七)同所同番地所在(未登記)

木造モルタル造瓦葺平家建居宅 一棟

床面積 一一九・〇〇平方米

(昭和四二年一〇月建設)

(別表)

一、白麦米株式会社に対する債務 金一、六一五、〇〇〇円

一、国民金融公庫に対する債務 金一、三八〇、〇〇〇円

一、小池食品に対する債務 金四二七、五〇〇円

一、北海屋無尽会に対する債務 金三〇〇、〇〇〇円

一、甲府信用金庫に対する債務 金一、五〇〇、〇〇〇円

一、清水製菓株式会社に対する債務 金二五〇、〇〇〇円

合計金五、四七二、五〇〇円

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